量感(リョウカン)とは何か?

まず「量感」という言葉を調べると、【人や物から受ける、大きさ・重み・厚みなどの感じ。ボリューム。】という説明となります。同じように二字目に「感」を付けて意味を成す熟語には、音感(オンカン)・好感(コウカン)・語感(ゴカン)・実感(ジッカン)・体感(タイカン)・直感(チョッカン)・鈍感(ドンカン)など、いずれも文字通り感覚的な言葉が並びます。ただここでは算数用語として使いますので、【計器を使わずにある量の大きさの見当をつけたり、ある単位で示された量が実際の物でどれくらいの大きさになるかの見当をつけたりするための、およその感覚】となります。

 

           基本的な量感チェック

「定規を使わずに、5㎝の長さの直線をひいてみよう!」“長さ”の量感をはかるテストです。ぜひお子さんと一緒にチャレンジしてみてください。長さが4.7cm5.3㎝の枠内に入ったら、すばらしい量感の持ち主です。また「家から近所のスーパーまで、どのくらいの距離かをあてる」という“距離”の量感をはかるテストも楽しいです。答えはgoogleマップなどWeb上の機能を使えば知ることができます。

お子さんが小学4年生以上ならば、“角度”に対する量感もチェックしてみてください。

「角度が130°だと思う図を描いてみよう!」という問題です。こちはら描いたあと、実際に分度器で測ってみてください。120°~140°の枠内に収まれば見事です。

また、お子さんといっしょに料理をする機会があったら、100ml300gなどの“質量”の問題を出してみましょう。ふだん料理をされている方にとっては何気ないことも、子どもにとっては、なかなかの難問になります。

 

           全国学力調査に挑戦!

                      以下は文部科学省が以前、小学6年生を対象に出題(一部改題)したものです。

ぜひ、チャレンジしてみてください。

                      【Q1】 約1kgの重さのものは?

a)空のランドセル1個の重さ       (b1円玉1枚の重さ 

c5段のとび箱全体の重さ        (d)ハンカチ1枚の重さ

 

           【Q2】 約150平方センチメートルの面積のものは?

a)切手1枚の面積                 b)年賀はがき1枚の面積

(c)算数の教科書1冊の面積      d)教室1部屋のゆかの面積

                     

                      (解答)

【A1】 (a)が正解です。正答率は65.8%でした。ほぼ毎日ランドセルを使っている小学生と

しては、少し残念な結果ですね。(c)を選んだ生徒が25.5%もいました。

【A2】 (b)が正解です。正答率は17.8%でした。(c)を選んだ生徒が49.2%と約半数を

占めました。また正答と大きく離れている(d)を選んだ生徒が30.6%もいました。

 

このように現代の子どもたちは、“重さや面積といった量感は乏しい”のです。量感が育たない一因に、生活体験が乏しくなっていることが挙げられます。例えば『水1L分の重さが1kg』という知識は、小学校5年生の算数「体積」の単元で学習します。これを教科書で学習をする前に、1Lという“かさ”の感覚や、1kgという“重さ”の感覚を持っていれば、実感が伴う分だけ身につきやすくなります。家庭でのお手伝いやキャンプなどの自然体験が重要といわれる所以です。かつては「自然と身についていた」感覚も、機械による自動化が進んだ現代では、獲得しにくくなっているのです。小学生にとって、ドリルを使って計算練習・反復練習をすることは必要不可欠ですが、それだけに終始してしまうと、学習内容と生活がつながらないのです。

そして、上記の問題は面積の量感だけでなく、長さの量感と面積の公式の応用でもあるのです。一般的に子どもたちには、与えられた数値をもとに面積を計算する問題には高い正答率を示します。しかし150平方センチメートルは何cm×何cmかがイメージできないのは、勉強したことを活用できない状態- リテラシー(応用力)不足と言わざるを得ません。

 

           Let‘t Try 上級者問題

【Q3】サッカーのペナルティエリアの面積は?

a10坪          (b50

c100         (d200

 

                      【Q4】 この角度は、何度くらいでしょうか

 

 

 

 

 

 

 

 

(解答)

【3】 (d)が正解。実はこの問題、サッカーファンにとっても難しいようです。

「坪」という面積をあらわす単位が、日常的ではなくなってしまったからでしょうか。

【4】 正解は70°です。大人になると「角度」から離れてしまいますので、

難しいと感じられるのではないでしょうか。

 

では【Q4】に対して、自分のお子さんが「んー、100度くらい?」と答えていたとしたらどう思われますか?正直、ショックを受ける方が多いと思います。実際に小学生に角度の授業をしていると、この問題を110°と答える生徒は少なくありません。「見た目として90°より小さくないか?」と話すと、「分度器で測ったらこうなりました」などという残念な返事がきます。確かに上の問題、分度器で測ると70度と110度の両方が表示されています。もちろん開始位置が0度の方を読み取るので、70度に決まっているのですが……ちょっと注意がそれた場合、間違えてしまうかも知れません。まあ、そこまでは良いとしましょう。ところがある程度量感のある子ならば、ここで間違いに気づきます。少なくとも直角=90度より小さいワケですから、110度はあり得ません。「あれ、おかしいぞ?」と感じた子なら、ここで答えを修正するなり、もう一度測り直すなどの対処を行います。ところが量感に欠ける子は全く気づきません。そのまま何の疑問も無く答えを書きます。自分の感覚よりも(誤)表示されている数字が優先されてしまうのです。

 

           量感が無いと理科・算数(数学)の伸びが鈍る

自分が導き出した答えを見直しする際、量感は非常に重要です。ある問題で、人間の歩く速さを求めたら、分速80kmだったとしましょう。1秒で1km以上進むのですから、飛行機より速いことになります。明らかに分速80mの誤り ― これは量感に頼るまでもなく、見直しをしたかどうかの差 - です。ところが人間の歩く速さを求めたら、分速300mになったとしましょう。どう考えても走っている速さなのですが、量感に欠ける子は全くおかしいと気づきません。こういった事象を単なるケアレスミス、と片付けてしまうのは危険です。理数的・論理的な能力も、もともとは感覚の上に成り立っているのです。

また授業内で距離の単位変換をさせると1km=100mというミスがよくあります。これは暗記をすれば済む話ではありません。暗記に頼りすぎているから、ちょっとしたミスを犯すのです。これを「覚え間違い」で済ましてしまうと、子どもの量感は育ちません。わたしは「100m走ったら1km走ったことになる?」と聞きます。こう聞くと、当たり前ですが全員が否定します。このように少しでもイメージすれば自力で分かることなのですが、紙面上の数字だけを見て公式にあてはめて計算している子は気がつかないのです。

量感そのものが問題を解くのに役に立つわけではありません。小学生のうちは答えの見直しに役立つ程度です。しかし中学進学後、ある一定のレベル以上になると、「量感がある/ない」で、かなりの差が付きます。量感を持っている子は、解を絞り込む際に考える範囲が狭くて済むので、スピーディーに導くことができるのです。また量感を持っている子は持っていない子に比べ、理数科目における努力が成績に反映されやすくなることは間違いありません。小学生の学習内容は日常生活のことを取り扱う場面が多いので、早いうちからできるだけ数字に実感を伴わせ、イメージさせることが重要です。

 

究極の一問

                       さて、私の授業において「体積・容積」の単元で出す最後の問題です。

 

                      【Q5】 自宅にある浴槽にお湯をはったとき、水の重さはおよそどのくらいになりますか?

                                  ただし、お風呂が温泉みたいなゴージャス家庭は除きます。

                     

一般的なユニットバス(1.5坪くらい)についている浴槽について計算してみます。実測するわけではありませんので、量感が必要です。仮に縦90cm×60cm×深さ45cmと計算します。丸みを帯びていると思いますが、そこは無視します。深さは実際にはもっとあると思いますが、お湯があふれまくってもったいないですので、満水にする人はいないと考えます。すると、水の体積は243000程度になります。10001Lですので、240Lくらいですね。水は1L1kgの質量ですから、結局240kgということになります。誤差を考えると、お湯の重さは200kg300kgくらいです。この範囲に入れば大正解です。ただ残念ながら、なかなか正解する小学生はいません。30kg前後という答えを出す子が多いのですが、まだまだ量感不足です。浴槽には“自分の体積”よりもかなり多くのお湯があるのですから、自分の体重よりも軽い、ということはありません。ここから学ぶべき事は、「水って意外と重いんだなあ」という感覚です。このような生活の中でのちょっとしたトレーニングが、子どもの量感が鋭くするのです。

 

           量感を鍛えるためにすること

量感を鍛えるためには「意識をさせる」ことです。身の回りの物がどのような大きさなのか。どのような重さなのか。それを知ることから始めます。ペットボトル飲料の容積が500mLなのはだいたいの子が知っています。それを基準とすれば、缶コーヒーがだいたいどの程度の容量なのか、重さなのか、ある程度分かってもらえます。こうして1つの基準から少しずつ回りに広げていき、未知の量を類推する。これが相対的な量感の身につけ方です。もちろん実測させることも大切ですが、実測の前に予想させ、測定結果と比べさせることを忘れてはなりません。身近な物についてその長さや重さを覚えたり,単位量についての感覚を養ったりすることによって,次第に量感が身についていくのです。

もう1つは、絶対的な量感の身につけ方です。1mを手で広げさせてみると分かります。他の物と比較するのではなく、何も無い状態で大きさを示すのは難しいことです。上の角度問題がこれに近いです。角度で言えば、直角は誰でも分かると思います。また、少し量感が鍛えられてくると、次に身につくのは45度でしょう。「斜め45度」という表現が一般的に使われるのは、この量感が身についている人が多い証拠です。

この2つがすぐに身につくのは、目にしている機会が多いからでしょう。つまり、絶対的な量感は経験がモノを言うということです。周囲にいる大人が、頻繁に問いかけをしてやれば、量感は比較的容易く身につけることができます。私はよく生徒にクイズ形式で問いかけます。小学生なら、長さ・重さ・角度の3つの量感はぜひ身につけておきたいところです。特に手のひらサイズの長さ・角度は重要ですので、できるだけ低学年のうちに習得を目指しておきましょう。

個人的には、量感を身につけるのは、習って1年間が勝負だ考えています。新しい概念を知り、それが現実でどのように使われているかを知ることで、自然と量感が身について行きます。このとき最高の指導者は、最も多くの生活時間を共有している保護者の方です。ぜひ日常のコミュニケーションの一つに、取り入れていただきたいと思います。【了】