子どもが中学受験で志望校に合格したと聞けば、たいていの親は手放しで喜ぶだろう。中でも、高い進学実績を誇る中高一貫校や大学付属校となれば、「(就職活動までの)あと10年は心配しなくていい」と、大船に乗った気持ちになるかもしれない。しかし、その安堵(あんど)が「つかの間」で終わるケースが稀(まれ)ではないという。中学合格後に直面する「誤算」と、つまずいた子どもたちの再起の道について、教育ライターの小山美香さんがリポートする。

■中高一貫校で不登校…苦しんだ2人が迎えた春

 この春、私が特別な思いで大学合格を祝うAさんとB君がいる。

 ふたりとも中学受験を突破し、中高一貫の進学校に通っていたが、不登校になってしまった過去を持つ。どちらもつらい思いをした末の大学合格だった。

 Aさんは高2から不登校になった。バンド活動などをしていて、活発で目立つ存在だったが、母親によれば「(本心では)受験一辺倒の学校の雰囲気になじめなかった」という。母親が校門まで送っても、その内側に足を踏み入れることができなくなり、ついには心身の不調を訴えるようになった。母親は「自殺を考えているのでは、と心配したこともある」と打ち明けた。

 悩んでいるAさん親子に、学校側は冷淡だった。母親は今も憤る。「担任は校長や教頭の顔色ばかりをうかがい、娘にはうわべだけの態度で、本当に心配してくれませんでした。娘も、自分を分かろうとしてくれない担任に絶望し、学校を辞めたのです」

 Aさんは高3から通信制高校に転入し、一浪の末、有名私大に合格した。

 一方のB君は、毎年、東大合格者を10人以上出す有名校に進んだ。勉強も運動もできて女子にモテて、目立つグループの1人でもあった。だが、高校に上がると休みがちになり、ついには進級できないほどになった。

 「友達が大好きで、学校に行きたいと思っているのに、どうしても体が動かない。自分でも理由が分からなくて、苦しかった。怠けていると思われ、周りの大人に理解してもらえないつらさもあった」という。

 B君は通信制に移り、高校課程を修了。その後も体調不良に苦しみながら受験勉強に取り組み、都内の有名私大に合格を果たした。

■進学校にも“負の側面”

 私は教育ライターとして、さまざまな私立中学、高校を取材する一方、母親として3人の子に中学受験を経験させ、私立の中学、高校に通わせている身でもある。両方の立場から情報を得て、本当に良い学校をどう選ぶかについて考えてきた。

 私立の中高一貫校、大学付属校などの進学校にはさまざまな優れた面があるが、一方で、不登校・留年・退学といった“負の側面”とも無関係ではない。

■通信制高校には進学校からの転入者がいっぱい

 早稲田大学合格 〇〇さん

 慶応義塾大学合格 □□さん

 ……

 ある通信制高校の入り口に、有名大学の合格者名が誇らしげに掲げられている。

 通信制高校といえば、一昔前は、働きながら学ぶ生徒や、全日制の授業についていけない生徒などをイメージする人が多かったと思う。しかし、今や高い進学実績を誇る学校もあり、国立大や前出の2大学、MARCHと呼ばれる明治、青山学院、立教、中央、法政の各大学などの合格者も多い。

 その一因とされるのは、中高一貫などの進学校で不登校になった生徒が、転入するケースが増えていることだ。

 クラーク記念国際高等学校(本校・北海道深川市)は、国内外に約1万2000人の生徒を抱える通信制高校だ。近年の進学実績はめざましく、今年も東京大、京都大、東北大などの国公立大や難関私大に多くの合格者を出した。

 「国公立をはじめ、早慶上智にも毎年合格者を出しています。本校では全日型通信制の特性を生かした柔軟なカリキュラムが組めるため、英語やスポーツ、美術など、(生徒が)自分の興味ある分野に特化して学ぶことができます。この点に興味を持って入学する生徒が多いですが、中学や高校で不登校になっていた生徒が入学したり、転入学・編入学で高校を移ってきたりするケースも一定数あります」(運営統括本部長の小泉潤さん)

 別の通信制高校の関係者はこう話す。

 「不登校から復帰しようとしても、同じ学校ではなかなか難しいのが実情です。しかし、環境を変えることで学校に行けるようになるケースは多くあるので、(中高一貫校などで)中学時代に不登校になった生徒が、通信制高校に入学して再スタートするケースが増えています」

 平成29年度の文部科学省の調査によると、通信制課程の学校数は全国250校で前年より6校増加している。同12年度の調査では113校だったから、17年間で2倍以上に増加した計算だ。生徒数も18万2515人で前年より1,484人増加している。進学校を退学した生徒の受け皿になっていることも影響しているとみられる。

■中高一貫校で不登校、系列校に進めぬ場合も

 一方、同省の調査では、全国の中学校の不登校生徒数は10万3,235人で全生徒数の3.01%、高校の不登校生徒数は4万8,565人で、全生徒数の1.46%に上っている(平成28年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」)。

 義務教育である中学校は、不登校の場合も留年にはならず、卒業することはできる。ただ、中高一貫校では多くの場合、系列の高校に進むことができない。

 一方、高校の場合は、不登校で出席日数が足りなくなると留年になるため、退学するケースが多い。同調査では、不登校生徒のうち、26.3%が退学していた。

■偏差値70台、東大ランキング校にも悩む生徒が

 進学校を含む私立中・高でどれだけの退学者が出ているのか、その実態は不透明だ。2005年に東京都中学校長会が、東京私立中学高等学校協会に「安易な退学処分の自粛」を申し入れ、私立側が反論する事態となったが、具体的な退学者数などについては「調査はしているが、データは公表しない」(東京都中学校長会)としている。

 ただ、関係者の話から垣間見える部分もある。不登校や中退の相談を年間450件受けているというNPO法人「高卒支援会」の教務部長・竹村聡志さんが言う。

 「近年は中高一貫進学校の生徒の不登校や退学に関する相談が増えています。偏差値70台の進学校や東大合格者ランキングに名を連ねる学校に通う生徒もいます。悩みや問題を抱えている生徒に、学校側はただ『勉強しなさい、このままじゃ大学行けないぞ』と脅すだけなのでしょう」

 生徒や親から相談を受けた竹村さんたちは、学校に連絡して「一緒に対応を考えませんか」と提案するそうだが、多くは徒労に終わるという。

 「『ウチはウチだけで(解決するので)大丈夫です』と断られます。私たちと相談して、スムーズに他校へ転入させることも考えて欲しいのですが、ひどい場合だと、中学3年の2月や3月になって、『(中高一貫校だが)上の高校へは上がれません。(中学卒業後は)出て行って下さい』とバッサリ切られることもあります。その時点では他校の高校受験は終わっているのに」

■「転校したほうが…」成績の悪い生徒に“肩たたき”も

 竹村さんの話は氷山の一角か、それともレアケースか――。中高一貫の進学校に通っていた生徒やその保護者たちを取材すると、前者であることがはっきりしてきた。勉強について行けずに悩んでいたら、学校側から「肩たたき」にあったという声が次々に上がったのだ。

 「『(勉強に)ついていけないなら、転校したほうがいい』と何度も言われた。高校も外部を受験するように言われた」(C君の母親)

 「テストの成績が悪いと、先生に『おまえ、このままだとやばいよ。ついてこれなきゃ終わりだよ』と言われた。赤点で補習になったメンバーが1人、また1人と、学校を辞めていった」(D君)

 D君は、前出のAさんと同じように、通信制高校へ転入する道を選んだ。「(中高一貫の)学校では、いい大学に行くことがすべてという価値観で、ぼくには合いませんでした。ぼくにはもっとのびのびできる学校がよかったのだと思います。でも中学受験のときはまだ小学生で、学校を偏差値でしか見ていませんでした」

■赤点続きで「問題児クラス」に

 成績の上がらない生徒ばかりのクラスを置く学校もあるという。

 「中学受験が終わった解放感もあって、勉強をさぼっていたら中2でついていけなくなった。特に英語は赤点続きでした。中3からは(通称)『問題児クラス』に入れられました。成績不振や問題行動のある生徒だけが集められたクラスで、高1で留年になるまで放っておかれました」(E君)

 次第に学校から逃避するようにゲームにのめり込み、生活は昼夜逆転して、高1の5月には学校へほとんどいかなくなってしまったそうだ。現在は通信制高校に転入して、高校卒業を目指してがんばっているという。

 竹村さんは、「(子どもが授業についていけない状態で)保護者の対応が遅くなれば、(高校の場合は)留年が確定してしまうこともあります。転学は遅ければ遅いほど不利になる。選択肢が少なくなるので、早めに相談することが望ましい」と話している。

■「エスカレーター校」も甘くない

 私はこうした実態を、以前からある程度、把握していた。上2人の子どもが中高一貫の進学校に入学し、見聞きしていたからだ。

 それだけに、一番下の子どもが私立の大学へとエスカレーター式に進学する付属校に入学した時は「受験のプレッシャーもなくて伸び伸びできるので、不登校になる生徒などいないのでは」と思っていた。しかし、蓋をあけてみると、付属校であっても不登校の子は存在したし、その原因もさまざまだった。

 私と同様に、子どもを大学付属中学に通わせている母親が語る。「成績が悪ければ、付属といっても高校や大学に上がれない可能性が出てきます。もう心配ないと思っていたのに、こんなに大変だとは思いませんでした。(本当に高校に上がれないのではと)親子でビクビクしています」

 別の大学付属中学に通う子の母親も「子どもが不登校になってしまったのですが、学校側は『高校には上がれません』の一点張り。具体的な対応策も示してくれず、あまりの冷たさに怒りさえ覚えました」と振り返る。

 大学付属高校でも出席日数が足りなかったり、成績が悪かったりすれば、留年になってしまい、大学には進学できないこともある。毎年20~30人程度の留年者を出す学校もあり、留年したクラスになじめずに辞めていく生徒たちもいるという。

 息子をある大学付属高校に通わせる母親は、「このリポートを〇日〇時までに提出しないと留年だよと事前に言ってくれればいいのに、提出時間が遅れただけで留年になり、大学の推薦がもらえませんでした。あまりに不親切では」とこぼす。

■親が子どものためにできること

 中学受験に合格したら、それですべてうまくいくわけではない。ごく当たり前のことではあるが、受験に必死になるあまり見落としがちな事実だ。

 進学校でも付属校でも、学業に関する強いプレッシャーが待ち受けている。もちろん、希望の大学進学を目指すなら、入試による選抜やテストによる評価は避けられない。努力して勉強することも必要だろう。ただ、だからと言って、心身に不調が出るまでになっては元も子もないと思う。

 親が子どものために出来ることは、志望校が本当に子どもに合っているのかどうか、情報を集め、見極めることだと私は思う。学校選びは、とかく大学合格実績や偏差値に目を向けがちだが、学校の方針やレベルが子どもの性格、学力にマッチし、子どもの成長を本当に大事に見守る姿勢を持つ学校を選ぶことが大事なのではないか。

 ただし、仮に、子どもが不登校や成績不振で留年や退学せざるを得なくなったとしても、悲嘆にくれる必要はない。そこがまた子どもの出発点となる。そこから大学を目指す道もあれば、大学進学以外でも自分が本当にやりたいことを見つける道もある。世間の物差しにとらわれない、自分の本当の人生を歩むチャンスになるのだ。