「ある目標を達成したい時は、それを書き留めておくべき」ということは聞いたことがあると思う。やや陳腐にも聞こえるが、実際に効果があることだ。

私が実施した、男女差と目標設定に関するアンケート調査では、目標を書き留めるという面では男性の方が女性よりも若干優秀だったものの、男女ともに大きな改善の余地があるという結果が出ている。

回答者に対し、「自分の目標は、記述形式(絵、写真、図などを含む)で明確に表現されており、それを他の人に見せれば私が何を達成しようとしているのかが正確に分かる」かどうかを聞いたところ、残念ながら、目標を「常に」明確に書いて表現している人は全体の20%に満たなかった。

自分の目標を明確に書いて表現することは、目標達成へ強力に結びつく。自己目標を特にはっきりと記述または描写する人は、しない人と比べて目標達成率が1.2~1.4倍高くなる。紙きれに自分の目標を書き留めるだけにしては、これは大きな差だ。

ではなぜ、目標を書き出すことが良い結果をもたらすのだろうか? 自分の脳内で簡単に記憶しておくことができるものをわざわざ書き出すのは、とても面倒に思えるかもしれないではないか──?

書いて表現するという行為には、外部記憶とエンコーディング(記号化)という2つの段階がある。このうち外部記憶は説明が簡単で、自分の目標に含まれる情報を、いつでも見返すことのできる場所(例えば1枚の紙など)に保存することだ。

書いた紙は、仕事場や冷蔵庫などに張り出すと良い。ビジュアル的に訴えるもの(リマインダー)を毎日目にすれば、より記憶に残りやすい、というのは脳科学者でなくともわかる。

しかしここではもう一つ、エンコーディングというより複雑な現象が起きている。これは、知覚したものが脳の海馬へ送られ分析されるという生物学的プロセスだ。海馬に送られた情報は、長期記憶として保存されるものと、破棄されるものに分けられる。書く行為によって、このエンコーディング処理は改善される。つまり、書くことにより、記憶される可能性がより高まるということだ。

神経心理学で使われる「生成効果」という概念

自分で作り出したものの方が、ただ読んだだけのものよりも記憶に残りやすいという事象を、神経心理学者は「生成効果(generation effect)」と呼ぶ。目標を書き出す時には、この生成効果が2度起きる。1度目は、目標を立てる(頭の中に思い描く)時、2度目はそれを書いて表現する時だ。

目標を書き出すことで、頭の中に描いたイメージが再処理・再生成される。頭の中の絵について再び考えて紙の上に表現し、ものを配置・計測し、空間的な関係を考えたり、表情を描いたりする必要があり、そこでは多くの認知プロセスが起きている。つまり、目標を2回にわたり打ち付けることで、脳内に焼き付けるのだ。

書く行為が記憶を助けるということは、幾度もの研究によって証明されている。一般的にこの種の研究の被験者は教室でノートをとっている生徒だが、ある研究グループは、採用面接官に注目した。各候補者との面接時にメモをとっていた面接官は、メモをとらない面接官と比較し、面接で得られた情報を覚えている量が23%多かった。

もしも自分が面接を受ける立場にあり、面接官に自分のことを覚えておいてほしいなら、面接官がメモをとってくれることを願おう。

書くことで改善するのは、一般的な記憶力だけではない。書いて表現することで、真に重要な情報に対する記憶力も改善する。授業で教師が言うことの中には、本当に重要なこと(テストに出るもの)と、さほど重要でないこと(テストに出ないもの)がある。

ある研究によると、授業中にノートをとらない場合、重要な情報と同じだけ重要でない情報も記憶してしまっていることがわかっている。一方、ノートをとった人は、重要な情報の方をより多く記憶していた。

メモをとれば、記憶力が高まるだけでなく、真に重要なことに集中することで思考を効率化できる。そして自分の目標とは、真に重要なことの一つであるはずだ。